「ハッピーバースディ」(written by Yukko 99/04/18)


「だからぁ、どうしたって?」
 ブルーな気分の時に、ブルーな友人からの電話。
 意識しなくても、返す言葉が、鷹揚になってしまっていた。
『だってさ、あいつって酷いんだよ。なかなか会えなくて、久しぶりのデートだっていうのに、すっぽかすんだもん』
「やっぱり、そんなもんよねぇ」
 いずこも似たようなもののよう。亮子の彼氏も仕事優先の人間の様だ。
 最近思うこと。遅刻するくらいはまだまだ可愛いもの。男どもは何かに付けて『仕事、仕事』と言って、約束をご破算にしてしまう。
 彼女との約束に次はあっても、仕事に次はないらしい。分かってはいるけれど、奴らの中の優先順位が腹立たしい。
『何よぉ、冷たい反応ね。ちょっとは同情してくれたっていいんじゃない?』
「他人のことより、我が身の不幸よ。何で私が今日部屋に帰って来てると思う?」
 溜め息ついて、そう答えると、電話の向こうから、息を飲む気配が伝わってきた。
『え?……あ、今日、彩の誕生日じゃない!』
「そうよ」
 今日という日。一年に一度の私の記念日なのに、私はこうやって一人、部屋でぼーっとしているのだ。
『……何で、部屋になんかいるわけ?』
「あんたと同じよ。すっぽかされたの!今ごろ仕事と仲良くやってるんじゃない」
 思い返すだけでも、腹が立ってくる。頭では分かっている。確かに、デートの約束は次もできる。
 でも、今日くらいは、ちゃんと一緒にいて欲しかった。
 それなのに、約束の場所で待っていた私に冷たい一本の電話。「仕事で行けなくなった」だって。謝ってはくれたけど、奴が悪いと思っているのは分かったけれど、腹が立つのは抑えられない。
『ご愁傷様』
「ま、亮子も、自分より不幸な女がいるんだから、気持ちを落ち着けなよ。私なんか、悲惨の極みだわ」
『……何か、気が抜けちゃった。ま、お互い、気を落さずに頑張ろう』
「それじゃあ、ね」
 すっかり毒気を抜かれたかのように、亮子は逆に私のことを励ましてくれて、電話を切った。
「はぁー」
 大きく溜め息ついて、ベットに寝っ転がる。
 何か、本当に、この世で一番不幸なのは自分じゃないかしらという気がしてきた。


「んー、何?うるさいなぁ」
 うつらうつらしていたら、何やら陽気なメロディに起こされた。
 ……何やらって、これ、携帯の呼び出し音じゃない。
 時計を見れば、十二時前。……一体誰がかけて来たのやら。バックを探って携帯電話を手にする。
「はん?潤一じゃん。――もしもし?」
 液晶に刻まれてるのは見慣れた名前。仕事の虫が一体何の様があるんだろう?
『彩、今どこにいるんだ?』
 電波悪いところからかけているのか、とっても聞こえにくい声。
 いきなりな言葉に、思わず、むっとしてしまう。
「………。一人でどこに行けっていうのよ?」
『良かった。今すぐ、出て来れるか?』
 しかし、私の嫌味は通じなかったらしい。
 ほっとした調子で潤一は無理な主張をしてくれる。
「何言ってるの?今、何時だと思って……」
『必死で来た俺にそんなこと言うか?仕事、ちゃんと終わらせてきたんだぜ。着替えなんて、何でもいいから、早く降りて来いよ』
 その言葉のすぐ後に、控えめなクラクションの音。
 なんて奴だ。まさかと思って、窓の外を覗いてみれば、見慣れた車がマンションの前に止まってる。
「わかったわよ」
 ここまで来たものを追い返すこともできない。
 しぶしぶそう返事して、電話を切った。


「ったく、もう。勝手なんだから!」
 ウチから車で十分ほど行くと、海岸線に出る。しんと静まり返った道路の脇に潤一は車を止めた。
 必要最低限の化粧をして、慌てて着替えて乗り込んだ私は、そう怒って見せた。
 ……と言っても、余り強気には出れない。何のかんの言っても、会えたのが嬉しかったから。
「悪かったな、今日。約束の時間に間に合う予定だったんだけど」
「いいよ、もう。仕事なんでしょ?仕方がないじゃない」
 このまま甘い顔を見せてなるものかと、わざとぶっきらぼうに返すと、潤一は肩を竦めて、小さく溜め息をついて見せた。
「怒るなよ。本当に悪かったと思ってるんだから」
「別にもう怒ってないわよ。――でも、こんな遅くに、わざわざなんで?」
「今日中に、渡したい物があったんだ」
 もったいぶった物言いに、私は首を傾げる。
 珍しい事だった。何にしても、あっけらかんとしている潤一がこんな風に言うのは。
「何?」
「そこ、開けてみてよ」
「そこ?」
 潤一の言いたい事が分からなくて、助手席できょろきょろ辺りを見まわした。
 そこって、どこのことなんだ?
「ダッシュボード」
 何時まで経っても、分からない私の様子に業を煮やして、潤一はそう言った。
 で、開けてみると、小さな箱がちんまりとCDの上に座っていた。
「これのこと?」
「ん。開けて見てみ」
 見るからにって箱にちょっとドキドキしてしまう。しかも、この潤一の様子が、私の想像をさらに掻きたてる。
「うん……」
 ちょっと震えそうになる手で、リボンを外して、包みを開けた。
 ……予想通りの箱が出てきた。滑らかなビロード地の手触りにますます胸がドキドキしてくる。
「ヤだ、ちょっと、これ……」
 開けて見て、思わず絶句してしまう。
 予想通りだったけど、予想以上のプレゼントだった。
 ダメだ。混乱してる。……だって、私の目の前には、綺麗なダイヤモンドの填まった指輪があったから。
 これって……。
「誕生日、おめでとう。これで、お前の結婚したい歳になったんだよな」
「う、うん」
 どぎまぎして、とりあえず頷いた。――そう言えば、そんな事話したことあったっけ?
 でも、そんなこと言うなんてことは……。
「俺と結婚してくれないか?知ってのとおり、大した取り柄もないけど、お前のこと、絶対に幸せにするから」
「………」
 プロポーズだった。本当に突然の。
 私は言葉を返すことができなかった。だって、かってに涙がぽろぽろ落ちてしまって、それどころじゃなくなってしまったから。
「何だよ、泣くなよ。――で、返事は?」
 何か、ロマンティックなんだか、そうじゃないのか……。
 何でここで急すのかと思いつつ、そんなぶっきらぼうな物言いをする潤一に私は泣きながら笑ってしまった。
 やっぱり、ドラマみたいに、カッコ良くはいかないよね。真夜中に、車飛ばしてきてはくれたけれど。
「……指輪、私の指にはめてよ」
 真っ赤になった眼で私はそう言って、潤一に向かって左手を差し出した。
 これって、今までで、一番素敵なデートじゃない?――世界で一番不幸だったはずの私は、突然、世界で一番幸せな人間になってしまった。


-->>あとがき


6000HIT記念創作です。
……今となりましても、まともに読み返すことが出来ない話でして。
こっぱずかしい代物です☆
この時のリクエストに答えようと「最高のデート」なる物を
題材に頑張ってみたんですけれども、結果はこれでした。
とほほ。
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